イオン半径
イオン半径は特定の構造環境における有効な大きさで、主に結晶の核間距離から導く。電荷、配位数、スピン状態、結合環境から独立した硬い球の半径ではないため、値を引用するときは条件も読む必要がある。
イオン半径の意味
イオン半径は構造モデル
結晶中の電子雲には鋭い境界がない。回折で得た核間距離を半径モデルが隣接イオンへ分配するので、採用する体系によって値が少し変わる。
電子を失うと陽イオンは通常小さくなる
電子間反発が減り、核電荷は変わらない。Na→Na⁺ のように最外殻全体がなくなる場合は特に大きく収縮する。同じ配位条件なら Fe³⁺ は通常 Fe²⁺ より小さい。
電子を得ると陰イオンは通常大きくなる
価電子領域に電子が増えて反発が強まり、核電荷は同じなので電子雲が広がる。同じ元素で比較可能な状態なら、より負の電荷ほど大きい傾向がある。
イオンの大きさを支配するもの
等電子系列が最も明快な比較になる
O²⁻、F⁻、Na⁺、Mg²⁺、Al³⁺ はすべて 10 電子である。電子数を固定して陽子数だけを主に変えると、O²⁻ > F⁻ > Na⁺ > Mg²⁺ > Al³⁺ の順に縮む。
配位数で表の半径が変わる
4 配位、6 配位、8 配位では同じイオンでも周囲の幾何が違う。したがって結晶距離から導いた有効半径も変わり、異なる配位数の値を無条件に比べてはいけない。
同じ元素でも酸化状態が大きさを変える
正電荷が増えるほど電子が少なく、残った電子は同じ核からより強い正味の引力を受ける。比較可能な配位・スピン状態では高酸化数ほど小さいことが多い。
イオン半径が化学へ与える影響
電荷密度が半径と分極を結び付ける
小さく高電荷の陽イオンは強い局所電場を作り、隣の陰イオン電子雲を歪める。半径が小さいこと自体だけでなく、電荷との組合せが重要である。
高い分極力
Al³⁺ は Na⁺ より小さく電荷も大きいため分極力が高い。ファヤンスの考え方では、こうした陽イオンは結合により大きな共有結合性を与えやすい。
高い分極率
大きく電子雲が拡がった陰イオンほど外部電場で変形しやすい。例えば I⁻ は F⁻ より一般に分極しやすく、結合性に影響する。
周期傾向は陽イオンと陰イオンを分けて読む
中性原子から陽イオンになると殻そのものが消える場合があり、陰イオンでは同殻反発が増える。全ての電荷状態を一つの矢印で扱うより、同じ電荷・配位や等電子系列で比較する方が信頼できる。
水和と格子エネルギーに大きさが現れる
小さく高電荷のイオンは水分子との相互作用が強く、格子中でも大きな静電安定化を与えやすい。そのため半径は水和エンタルピー、溶解、移動度、結晶安定性に反映される。
半径だけで結晶構造は決まらない
半径比は有用な第一近似だが、方向性のある結合、分極、電子構造、温度、圧力も構造を決める。硬球モデルを絶対視してはいけない。
演習
1. 等電子順位
O²⁻、F⁻、Na⁺、Mg²⁺ を大きい順に並べよ。
解答
10 電子を共有するので核電荷が増えるほど小さい。O²⁻ > F⁻ > Na⁺ > Mg²⁺。
2. 鉄イオン
同じ配位・スピン条件で Fe²⁺ と Fe³⁺ のどちらが小さいか。
解答
Fe³⁺。核電荷は同じで電子が一つ少なく、残った電子がより強く引かれる。
3. 表を使うとき
イオン半径とともに配位数を書くべき理由は何か。
解答
表の値は特定の結晶幾何から得た有効量であり、配位数が変わると核間距離と割り当て半径も変わるからである。