相図
相図は平衡状態の地図です。曲線の形を暗記するより、相領域と共存境界を区別し、温度や圧力を変えたときに状態がどの経路を進むかを読むことが重要です。
圧力–温度相図を読む
安定領域
単相領域の内部では一つの相が熱力学的に安定です。境界線上では二つの相の化学ポテンシャルが等しく、平衡共存します。したがって固液線や液気線は幅をもつ曖昧な領域ではなく、二相が同じ安定性をもつ条件の集合です。
経路を追う
初期の温度と圧力を決めて相領域を特定し、変数を一つずつ変えます。通常の P–T 図では一定圧力での加熱は水平、一定温度での圧縮は垂直の経路です。境界を横切るたびに平衡相転移が起こります。1 bar の水を低温から加熱すれば、融解、続いて沸騰を読み取れます。
三重点と臨界点
三重点
三本の共存曲線が交わる一点が三重点です。その物質に固有の一組の温度と圧力でのみ固体・液体・蒸気が同時に平衡共存できます。日常表で示される融点は通常、指定圧力での値なので三重点とは別物です。
臨界点
液体–蒸気共存曲線は高温高圧側で臨界点に終わります。臨界点に近づくにつれ液体と蒸気の性質は似ていき、その先では明確な液気境界がありません。物質は超臨界流体となり、密度は境界を横切らず連続的に変化します。
水と二酸化炭素
水
通常条件付近で水の融解曲線が負の傾きをもつのは、氷が液体水より低密度だからです。圧力を上げると体積の小さい液体が有利になり、融点はわずかに下がります。これは氷の水素結合による開いた構造を反映した熱力学的結果です。
CO₂
CO₂ の三重点圧力は約 5.18 bar で大気圧より高いため、約 1 bar では安定な液体領域に入れません。固体 CO₂ は加熱すると融解せず昇華します。同じ相図の考え方は凍結乾燥にも使え、水を三重点より低圧に保つと氷から蒸気へ直接移る経路を利用できます。
境界の傾きと相律
Clapeyron の関係
dP/dT = ΔHtrans / (T ΔVtrans)
共存曲線の局所的な傾きは Clapeyron 式 dP/dT=ΔH_trans/(TΔV_trans) で相転移のエンタルピー変化と体積変化に結びつきます。融解の ΔH は正なので、傾きの符号は ΔV に依存します。水は融解で体積が減るため ΔV<0 となり、負の傾きになります。
Gibbs の相律
F = C − P + 2 · C = 1: F = 3 − P
Gibbs の相律は F=C−P+2 です。純物質では C=1 なので F=3−P。単相領域では温度と圧力を独立に変えられ、二相境界では一方を決めると他方が定まり、三重点では F=0 となって両方とも自由には変えられません。
モデルの限界
相図は平衡安定性を示しますが、平衡に達する速度は示しません。過冷却、核生成の遅れ、準安定状態、ヒステリシスは速度論の問題です。実在物質には複数の固相があり得ますし、混合物では組成が変数に加わって二元・三元相図、共晶点、溶解度限界などを扱います。
例題と演習
一定温度での圧縮
臨界温度より低い温度で気体を一定温度のまま圧縮すると、P–T 図上では垂直に進みます。液気共存線を横切れば、その圧力で液体と蒸気が共存し、さらに圧縮すると液体領域へ入ります。臨界温度より高い場合は共存線が存在せず、密度だけが連続的に増加します。
経路を読む
三重点圧力が 4 bar の純物質があります。その固体を 1 bar で加熱すると、安定な液相は現れますか。
解答
現れません。1 bar は三重点圧力より低く液相領域へ到達できないため、加熱経路は固体–蒸気境界を横切り、固体は昇華します。