黒体放射
黒体は電磁放射を完全に吸収し、熱放射する理想模型です。そのスペクトルは一色・一波長ではなく、温度だけで形が決まる連続分布です。温度を上げるとスペクトル全体が強くなると同時に、ピークは短波長側へ移動します。
黒体は模型であり「黒く塗った物体」ではない
理想黒体は波長や方向に関係なく入射する電磁放射をすべて吸収します。熱平衡では熱放射の基準スペクトルも与えます。遮光された空洞の小さな穴はよい近似で、穴に入った放射は内部で何度も反射し、外へ戻る可能性が非常に小さくなります。
「黒」は完全吸収を表す言葉で、加熱時に目で見える色のことではありません。十分に高温なら黒体は赤、白、あるいは青白く見えるほど可視域で強く放射します。
温度はスペクトル全体を変える
有限温度の黒体は広い波長域にわたって放射します。単位波長あたりのスペクトル強度を描くと一つの最大値があり、温度が上がるほど曲線は各波長で高くなり、ピークは短波長側へ移動します。
λmaxT = b
ウィーンの変位則は λmax T=b、b≈2.898×10−3 m·K です。温度は絶対温度を使います。これは単位波長表示でのピーク位置を示すだけで、λmax だけを放射するという意味ではありません。
温度を動かして確かめる
温度を変え、二つの予測を同時に比べます。ピーク波長はウィーンの法則、単位面積あたりの全放射はシュテファン=ボルツマン則から求まります。
全熱放射は T⁴ で増える
M = σT⁴
理想黒体では M=σT⁴、σ=5.670×10−8 W m−2 K−4 です。
T の4乗なので温度の影響は非常に大きく、同じ面積なら絶対温度が2倍の表面は単位面積あたり16倍の総放射を出します。実在表面はしばしば放射率 ε<1 で表し、理想黒体は ε=1 です。
これは放出される放射を表す式です。周囲との正味の放射熱交換を求めるには、周囲から入射する放射も考慮する必要があります。
古典物理が失敗し、プランクの考えが成功した理由
古典理論は短波長側で実測黒体スペクトルを再現できませんでした。プランクは物質と電磁モードのエネルギー交換を E=hf に関連する離散的な単位として扱うことで、正しいスペクトル形を得ました。
完全なプランク分布は広いスペクトルと温度依存性を説明し、ウィーン則とシュテファン=ボルツマン則もその帰結として含みます。黒体放射は量子物理への転換を促した中心的な観測の一つです。
計算例
1. 太陽に近い表面温度
T=5800 K の λmax を見積もります。
解答
λmax=(2.898×10⁻3)/5800=5.00×10⁻7 m=500 nm。単位波長表示のピークは可視域にあります。
2. 室温の物体
T=300 K のピーク波長を求めます。
解答
λmax=9.66×10⁻6 m=9.66 μm で赤外域です。室温物体が熱放射していても通常は目に光って見えない理由です。
3. 絶対温度を2倍
同面積の理想黒体BがAの2倍のケルビン温度です。
解答
PB/PA=(2T)⁴/T⁴=16。同時にウィーン則からBのピーク波長はAの半分です。