パウリの排他原理
パウリの排他原理は電子の占有に根本的な上限を与えます。同じ原子内で、4つの量子数がすべて同一の2電子は存在できません。「1軌道に最大2電子、しかも逆向きのスピン」という化学で使う規則は、その直接の帰結です。
厳密な内容
一つの軌道は n、ℓ、mℓ で指定されます。同じ軌道にいる2電子はこの3量子数を共有するため、残るスピン磁気量子数 ms が +1/2 と −1/2 に分かれなければなりません。
これは単なる静電反発の規則ではありません。電子は同一のフェルミ粒子であり、2粒子を交換すると多電子波動関数は符号を変える必要があります。同じ一電子状態を二つの電子が占める確率はゼロになります。
パウリ原理から周期表へ
角運動量量子数 ℓ の副殻には 2ℓ+1 個の軌道があります。各軌道に2電子なので s、p、d、f の最大収容数は 2、6、10、14。殻 n 全体では最大 2n² 電子です。n=2 は 2s と3個の2p、計4軌道なので8電子、n=3 は 1+3+5=9軌道で18電子です。
パウリとフントは別の役割を持つ
パウリ
4量子数が完全に同じ状態を禁止し、1軌道の上限を2電子にします。
フント
同じエネルギーの複数軌道では、対を作る前に一つずつ平行スピンで占有します。
炭素 2p² では、パウリだけなら一つの p 軌道に対を作る配置も許しますが、基底状態ではフント則により別々の p 軌道に入ります。構成原理と合わせることで通常の軌道図が得られます。
電子配置を越えた帰結
反対称性とフェルミ粒子
電子は区別できない半整数スピン粒子で、交換に対して全波動関数が反対称です。二つが完全に同じ一電子状態なら、交換で何も変わらない一方で波動関数は負になる必要があり、許される振幅はゼロです。これはクーロン反発とは独立の量子統計です。
パウリ原理と化学結合
逆向きスピンの2電子は同じ結合性分子軌道を占められるため、通常の二電子共有結合が成立します。3個目は同一状態には入れず、別の多くの場合高エネルギーの軌道へ進みます。
巨視的な帰結:縮退圧
極端に圧縮された電子系では低い運動量状態が埋まり、さらに電子を入れるには高い運動量状態を使う必要があります。電子縮退圧が白色矮星を重力に抗して支えるのは、同じ原理の巨視的な現れです。
閉殻が特別な理由
副殻内の全軌道が2電子ずつで埋まると、次の電子は別のより高エネルギー状態へ入る必要があります。1s²、2p⁶、3p⁶ などの閉殻の安定性や、Ne の次に Na が新しい 3s 殻を始めることに直結します。
なお、パウリ原理は「二電子が同じ空間領域に存在できない」という意味ではありません。逆スピンの同一軌道電子は空間確率分布を共有できます。禁止されるのは完全な量子状態の一致です。
演習
1s 軌道
スピンを工夫すれば 1s 軌道に3電子を入れられますか。
解答
できません。mₛ は +1/2 と −1/2 の二通りしかなく、3個目は完全な量子数の組を重複させます。容量は 2 です。
3d の容量
3d 副殻の最大電子数を求めてください。
解答
d 副殻には5軌道があり、各軌道は2電子まで。したがって最大 10電子 です。
同じ場所?
逆スピンの2電子が同一軌道の空間領域を共有することも禁止されますか。
解答
禁止されません。空間分布は重なれます。排他原理が禁止するのは完全な量子状態の一致です。